なぜ「データは石油」なのか? そこで IoTプラットフォームが果たす役割とは

トレジャーデータは、IoTの真価を解き放つプラットフォームをArmが完成させるための最後のピースだった――。アームは2018年 8月 22 日に東京都内で記者発表会を開催し、8月3日に発表した米Treasure Data社の買収と新IoTプラットフォーム「Arm Pelion IoT Platform」について紹介しました。

最初に登壇したのはArmのIoTサービスグループでプレジデントを務めるDipesh Patelです。Dipeshは「業界で初めて、デバイスからデータまでを一貫して管理できるエンド・ツー・エンドのIoTプラットフォームを提供する」と述べました。これは、今回取得したトレジャーデータのエンタープライズ・データ管理技術に加えて、先に買収した英Stream Technologies社のコネクティビティ管理サービス、Armが近年提供してきたIoTデバイス管理サービスと長年の蓄積があるIoTハードウェアに関する知識を組み合わせることで実現したものです。

東京都内で開催された記者説明会でTreasure Dataの買収について説明するDipesh Patel

続いて、トレジャーデータの創業者であり、現在はArmの IoTサービスグループでデータビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務める芳川 裕誠が壇上に立ちました。同社はエンタープライズCDP(Customer Data Platform)を主力サービスとして販売し、世界で300社以上の顧客に提供してきました。同サービスは現在、1秒あたり200万件のイベントを処理し、1日あたり数十万件のクエリと50兆件のレコードを処理する規模に達しています。扱うデータの種別は非常に幅広く、Webサイトやモバイルアプリの利用データから、CRMデータ、そして車や家電といったある種のIoTデバイスまで多岐にわたっています。

登壇した芳川は、これまで企業が取り組んできたデジタル化の多くは、ヒトのデータ(人のアクションを元に生成されたデータ)を活用するか、モノのデータ(デバイスが生成したデータ)を活用するかが、明確に分かれていたと指摘。ところが最近、両者を結ぶことで新たなビジネス価値を生み出す取り組みが企業で始まっていると述べ、その一例として「テレマティクス保険」を紹介しました(参考記事:「破壊的イノベーターに反撃」──Armが買収した日本人経営の米トレジャーデータ、IoT分析基盤の拡大狙う - ITmedia NEWS)。

さらに芳川は、「CDPは、企業がヒトのデータとモノのデータをミックスし、新しいビジネスを生み育てる基盤の役割を果たす。これを携えてArmに加わったことで、次世代のデジタル・トランスフォーメーションに挑む企業を、IoTのコネクティビティ管理からデバイス管理、データ管理まで提供する形でサポートしていきたい」と表明しました。

トレジャーデータの創業者であり、現在はArmの IoTサービスグループでデータビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務める芳川 裕誠

この記者説明会には、ソフトバンクグループ取締役でありソフトバンク代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮内 謙氏も登壇し、「エンド・ツー・エンドのIoTプラットフォームが完成したことの意味は、(IoTの利活用に取り組む)企業にとって非常に大きい。ソフトバンクとしてもIoTを徹底的に推進していく」とコメントしました。

ソフトバンク代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮内 謙氏も登壇し、Armによるトレジャーデータ買収および新たなIoTプラットフォーム「Pelion」のローンチに寄せる期待についてコメントした

「データは石油」の意味を読み解く

ソフトバンク宮内氏のコメントの中で今回メディアが着目したのが、「データは石油だ」という発言です。スマートフォン登場以降のここ10年の間に、米国の「GAFA」や「FANG」(Google、Apple、Facebook、Amazon、Netflixを指し、各社の頭文字を並べたもの)、中国のアリババやテンセントといった企業が、データを活用することで巨大なビジネスを生み出し、圧倒的な強者の座についた――という文脈での発言でした(参考記事:ソフトバンク宮内CEO「データは石油だ」—— アーム+トレジャーデータで狙うIoTプラットフォーム|BUSINESS INSIDER)。現代ではデータこそが企業に富と成長をもたらす“資源”であることから、“石油”と表現したわけです。

実際に、こんな記録があります。2007年と2017年における時価総額の上位企業を比較すると、2007年はエクソンモービル(1位)やペトロチャイナ(5位)、ロイヤル・ダッチ・シェル(7位)といった石油関連企業が並んでいます。ですが2017年は、1位から順にApple、Google(Alphabet)、Microsoft、Amazon、Facebookと続き、9位にテンセント、10位はアリババという顔ぶれです。10位以内に残った石油関連企業はエクソンモービル(8位)だけでした(出典:世界の株、時価総額最高 IT勢にマネー流入:日本経済新聞)。

実は、データを石油になぞらえられる理由は、ほかにもあります。そして、それらは“IoTの真価を解き放つ”ための鍵を握るのです。詳しく説明しましょう。

資源の大規模採掘にはプラットフォームが必要

1つ目は、「プラットフォームが必要」であることです。石油の場合、海底に眠る大量の原油を掘り起こして採取するには「石油プラットフォーム」を用います。IoTにおいても、「プラットフォーム」と呼んで市場に提供されている技術基盤をうまく利用することが、成功への最短ルートになります。(なんだダジャレじゃないか、と思わないでください!)

石油プラットフォームにさまざまな種類があるのと同様に、IoTプラットフォームも市場に多くの選択肢が存在しています。その中でArmのPelionが際立っているのは、第一に、Dipeshが説明会の冒頭で述べた通り、業界で初めてデバイスからデータまでを一貫して管理できるエンド・ツー・エンドの機能群を提供する点です。第二に、それらをArmがIoTプラットフォーム事業と半導体IP事業の両輪で提供するセキュリティ・フレームワーク上に構築している点。第三に、IoTの商用導入に際して企業がいま直面している大きな課題である「複雑性」に対応できることが挙げられます。

Arm Pelion IoT Platformは、コネクティビティ管理(Connectivity Management)デバイス管理(Device Management)データ管理(Data Management)の機能を包括的に備えたエンド・ツー・エンドのIoTプラットフォームである

これに対し、市場にある既存のIoTプラットフォームは、何かしら制約を抱えていました。すなわち、コネクティビティ管理、デバイス管理、データ管理の一部に特化していたり、特定の業界向けに応用領域を絞っていたり、といった制約です。またセキュリティについては、いわゆる“サイバーセキュリティ”への対策にとどまっており、IoTデバイス自体のセキュリティや、IoTデバイスのライフサイクルを管理しないことで生じる、IoTならではのセキュリティリスクへの対応が提供されていないケースもありました。

さらに、上述の複雑性についても、IoTで実際にはプロセッサ性能やメモリ容量が異なる多様なデバイスを扱う必要があるのに対し、特定クラスのデバイスだけしかサポートしていなかったり、デバイスごとに現実的にはコネクティビティがBluetoothやWi-Fi、セルラー系、LoRaなどと多岐にわたる中で、それらを管理する機能が提供されていかなったりといった制約もありました。

デバイスやコネクティビティの多様性は、IoTアプリケーションを大規模に導入し、管理していく上で大きな課題になっている

Armが今回提供を開始したPelionは、これらの制約をすべて取り除いたIoTプラットフォームであり、海底油田の採掘になぞらえられるような大規模かつ商用・工業レベルのIoT展開において企業がいま直面している、さまざまな課題を解決するものです。

IoTプラットフォームを利用せず、その構成要素をIoT導入企業が自らすべて自前で開発したり調達したりすることは、理論的には必ずしも不可能ではありません。ただ、商用・工業グレードの大規模IoT展開において、その選択肢は極めて難易度が高い上に経済的な合理性も求めにくいのが実情です。

そのデータは“実際に使える”ものか?

データと石油の共通点の2つ目は、「処理や加工が必要」であることです。天然資源である石油は、そのままでは利用できません。原油を蒸留して所望の成分を取り出し、さらに処理することで、石油製品が得られます。さらに異種の成分を添加・混合することで石油化学製品を作り出せます。これによってさらに大きな価値が付加され、企業はそれを提供することでビジネス成果を手にします。

データも同様です。IoTにおいて末端のモノが生成したデータそれ自体は、原油のようなもの。ゲートウェイ装置にエッジコンピューティングによるインテリジェンスを持たせて軽度のデータ処理をその場で実行し、意味のあるデータだけをネットワーク経由でクラウド上のデータ管理プラットフォームに送るといった工夫が有効です。

さらにクラウド側では、モノが生成したデータに加えて、前述のようにそれと結びつける取り組みが始まったCRMなどの既存のエンタープライズ・データを収集し、それらを統合し、前処理を施して、“実際に利用が可能なデータ”へと加工する必要があります。それを分析してビジネス価値につながる知見を掘り出し、それに基づいて具体的な活動を実行する。そうしてはじめて、企業はビジネス成果を手にできるのです。

Armが提供するPelion IoT Platformは、IoTデバイスを管理する「Device Management Services」の中で、IoTゲートウェイ装置に組み込む「Device Management Edge」と呼ぶ機能を提供しており、エッジ側での軽度なデータ処理を実現可能です。さらにトレジャーデータの技術によって、その後の工程でPelionに集約された各種データから“実際に利用が可能なデータ”を作り出すまでの一連のデータ管理を実現し、それを「Data Management Services」として提供しています。加えてArmは、その次の工程となるデータ分析やそれを企業活動に落とし込む部分についても、そうした領域を手がけるパートナー企業と構築したエコシステムを介して支援します。

Pelionのデータ管理(Data Management)サービスでは、多種多様なソースからのデータの収集、統合、記録、前処理、ディスカバリー、共有といった機能を提供する

IoTの真価を解き放つ

データが秘める価値は、それが石油にたとえられるように、極めて大きいものです。特に、今回の記者説明会でArmの芳川が述べた通り、ヒトのデータとモノのデータをつなぎ合わせ、そこから“利用可能”データを取り出して、真に価値のある知見を導出できれば――。

それはあたかも、海底に人知れず眠っていた巨大な油田を採掘するがごとく、どのような企業をも破壊的創造者に変貌させる可能性を秘めています。


お問い合わせ

Arm Pelion IoT Platformについてさらに詳しくは、アーム株式会社 IoTサービスグループまで、こちらのWebフォーム かメール( iotasia@arm.com )にて、日本語でお問い合わせください。

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